2. 方 法
1. 調査対象者 
 平成12年10月に開催された第77回箱根駅伝予選会(20km)に出場した全30大学からランダムにサンプリングされた8大学,計85名の男子長距離走者を対象とした.調査対象者の属性(M±SD)ををまとめると,年齢20.5±1.3歳,競技経験年数7.1±2.2年,自己記録(分:秒)が5000m14:43:5±50:1で,10000mで30:24:4±50:1,20kmで63:24:4±50:1であった.当日の成績は65:00:1±145:24であった.


2. 調査期間・調査手続き 
 調査期間は本大会が行なわれた平成12年10月下旬の約10日間で,郵送調査法を用いた.調査実施にあたっては,調査対象校の担当者に調査の目的・内容,および実施手続きについて十分な説明を行った後に,郵送で質問紙を送付し,調査用紙の説明,配布・回収,および返送を依頼した.試合結果の影響が及ばぬよう,調査は試合前に実施され,試合前の心理的ストレス変数が測定されるよう計画された.


3. 質問紙 
 本研究で使用した質問紙はストレッサー尺度,対処方略尺度,およびストレス反応尺度の3尺度から構成された.

1)ストレッサー尺度 まず,ストレッサー尺度は,予備調査および先行研究6,14-17,25)を参考に,大学長距離走者が試合前に体験すると想定されるストレスフルな出来事に関して,質問項目を収集した.項目内容を表1に示す.その結果,6つの下位因子(各因子5項目ずつ)・計30項目から成る「ストレッサー尺度」が作成された.以下に各下位因子名,説明,および代表的な項目内容を記す.



(a) 試合因子 (試合およびその成績結果に関するストレッサー:項目1,レースで練習の成果が得られるかどうかについて),
(b) 練習因子 (練習およびその消化状況に関するストレッサー:項目2,重要な練習をうまく消化できなかったことについて),
(c) 周囲の期待因子 (成績結果に対する周囲の期待に関わるプレッシャー:項目3,チームメイトからの期待について),
(d) 心身の調子因子 (試合前の心身の状態に関するストレッサー:項目4,体調が試合当日によい状態になるかどうかについて),
(e) 対人関係因子 (競技生活における対人関係に関するストレッサー:項目5,指導者の考えが自分の考えと合わないことについて),
(f) 競技生活因子 (競技生活上の労苦に関するストレッサー:項目6,クラブ活動で時間が束縛されることについて).

 回答に対しては「試合の1ヶ月前から当日までの間,以下に記すような出来事に対して,どのくらいストレスに感じていましたか.各々の出来事に対してストレスに感じた経験頻度と嫌悪感をそれぞれ評定して下さい」と教示文を記した.評定尺度については,ストレッサーの経験頻度および嫌悪感について回答させた.経験頻度については「全くなかった」(1)から「よくあった」(3)までの範囲で,また嫌悪感については「何ともなかった」(1)から「非常につらかった」(4)までの範囲で,それぞれ4件法で評定させた.さらに,本結果の分析においては,ストレス評価について上記の経験頻度に嫌悪感を乗じた値(得点範囲:1〜16点)を求め,分析に用いた.

2)対処方略尺度  大学長距離走者の試合前のストレッサーへの対処方略を測定するため,Folkman & Lazarus7)による「ストレス対処様式尺度」の日本語版である「ストレス コーピング インベントリー」14)を用いた.原尺度は8因子・計64項目からなるが,本研究目的と照らし合わせ,責任受容因子を除く7因子を採用し,また回答の簡便さを図るため各下位因子5項目で計35項目から構成した.各下位因子,説明,および項目の具体例を次にまとめた.

(a)計画型(問題解決に向けて計画的に対処すること:項目1,ストレスになっている問題の所在はどこにあるのかいろいろ考えてみた),(b)対決型(問題を直視し積極的に対処すること:項目2,問題となっている状況をはっきりさせるために,誰かに話しかけた),(c)社会的支援希求型(問題解決のため周囲の援助を求めること:項目3,自分の気持ちをすっきりさせてくれる人を見つけようとした),(d)自己コントロール型(自分の考えや気持ちを外に表さず慎重に対処すること:項目11,自分の感情をあまり外に出さないように努めた),(e)逃避型(問題から逃避する対処:項目12,全てを忘れてしまおうとした),(f)離隔型(問題と自分を切り離す対処:項目34,その問題は自分には関係のないことだと思いこむようにした),(g)肯定評価型(問題解決に向けて肯定的な方向に対処すること:項目28,人生における良い経験になっていると肯定的にとらえた).

 回答に対しては「試合前の1ヶ月の間で経験したストレスフルな出来事に対して,下記の項目について,自分がどの程度用いたか評定して下さい」と教示した.評定尺度は「用いなかった」(0)から「かなり用いた」(3)までの範囲の4件法で評定させた.

3)ストレス反応尺度 試合時におけるストレス反応を測定するため,尾関ら19)が作成した「大学生用ストレス自己評価尺度」に含まれるストレス反応に関する35項目を用いた.本尺度の下位因子は3側面・7因子ある.まず情緒的側面として抑うつ(例,悲しい気分だった),不安因子(例,気がかりであった),怒り因子(不機嫌で怒りっぽかった),次に認知・行動的側面として認知的混乱因子(例,頭の回転が鈍く,考えがまとまらなかった),引きこもり因子(例,他人に会うのが嫌で,わずらわしく感じられた),そして身体的側面として身体的疲労感因子(例,体が疲れやすかった),自律神経系の活動亢進因子(呼吸が苦しくなったりした),から構成された.回答に対しては「試合1週前から当日までのあなたの身体の状態や行動について,次の項目に評定して下さい」と教示文が与えられた.評定は「あてはまらない」(0)から「非常にあてはまる」(3)までの範囲の4件法で回答させた.

4)内的整合性 ストレッサー,対処方略,およびストレス反応に関する各3尺度の信頼性(内的整合性)を求めるためCronbachのα係数を算出したところ,ストレッサー尺度でα=.79-.66の範囲(M=.73±.05),対処方略尺度がα=.80-.62(M=.70±.15),またストレス反応尺度がα=.89-76の範囲(M=.83±.05)であり,満足する結果を得た.


4. 統計解析 
 本研究では基礎的資料収集を目的としたため有意水準を5%,有意傾向を10%に設定した.ストレッサー,対処方略,およびストレス反応の下位因子の分析には多変量分散分析(MANOVA)を適用し,Wilksのλ(ラムダ)の統計量が有意だった場合は事後分析に進み,群間の差異検討にはt検定(両側検定)を用いた.