| 3. 結 果 |
| 1. 調査対象者の分類 分析に先立ち,本試合における実力発揮度により調査対象者を分類した.実力発揮度は次式のように定義した.実力発揮度=推定値÷実測値×100(%).この値は,100(%)より上回ると実力発揮度が高い(推定値より速い記録)ことを表し,下回ると推定タイムに及ばなかったことを表す.試合成績の推定値は,10kmの自己記録を独立変数(x) 20kmの自己記録を従属変数(y)とする回帰式より算出した(20km推定値=655.469+1.724×10kmの自己記録,R2=.689). 全調査対象者について,実力発揮度の統計量を求めたところ,平均値と標準偏差(M±SD)が97.3±2.9%,中央値(Mdn)は97.7%であり,全標本は101.8%から85.1%の範囲でほぼ正規分布していた.よって,実力発揮度の上位および下位30名ずつを抽出し,それぞれ高群と低群に分類した.表2に各群の属性(M±SD)をまとめた.両群は年齢,競技経験年数,競技成績(5000m,10000m,本試合前の20kmの自己記録)において顕著な差異は認められなかった.実力発揮度において高群は99.3±2.9%(推定値から平均6.0±31.1秒遅れ),また低群は94.4±2.9%(推定値から平均223.0±123.0秒遅れ)であった.結果的に,実力発揮度において両者は大きな差異を表したが,次では試合前に遭遇したストレッサー,その認知的評価,対処方略,およびストレス反応における両者の差異を明らかにすることにする. ![]() 2. ストレス関連変数と長距離走者の属性との相関分析 ストレス評価,対処方略,ストレス反応と調査対象者の属性との相関分析を行った.表3に示すように,年齢が高い者ほど対処方略の計画型(r=.23)と対決型(r=.22)の評定値が高かった.競技経験年数が長い者ほど試合(r=.27),練習(r=.26),競技生活(r=.21)のストレス評価が高く,計画型(r=.23)の対処方略を利用し,身体的疲労感(r=.36)と自律神経系の活動亢進(r=.26)のストレス反応を高く評定する傾向が認められた.競技成績の低い者ほど,練習(r=.23)のストレス評価が高く,逃避型の対処方略利用が低く(r=-.22),不安(r=.26)と怒り(r=.25)のストレス反応が高い傾向が認められた.実力発揮の高い者ほど,全てのストレス評価因子が低く(r=-.39〜-.27),逃避型と離隔型の対処方略利用が低くく(いずれもrs=-.25),全てのストレス反応が低かった(r=-.55?-.23) 3.ストレッサーと実力発揮度の関係 1)ストレッサーの経験頻度 試合前のストレッサー経験頻度と試合での実力発揮度との関係を明らかにするため,実力発揮度の高群と低群のストレッサー下位因子の平均値を多変量分散分析で比較したところ有意だった(Wilksのλ=.65, F(6, 52)=3.71, p<.01).次に事後分析を行ったところ,表4に示したように,練習 (t(58)=2.27,p<.05),および周囲の期待 (t(58)=2.12,p<.05)の両ストレッサー因子に有意差が見られ,いずれも実力発揮度の低群のストレッサー経験頻度の評定値が高かった.ストレッサー下位因子内の項目別の傾向を見たところ,表1に示したように,練習因子の中では練習内容の不満足な消化状況や練習内容自体への疑問,記録の伸び悩みに関する項目について(項目8,14,20),また周囲の期待因子の中ではチームメイトあるいは指導者からの期待やプレッシャーに関する項目について(項目3,9,15),実力発揮の低群はより高い経験頻度を評定していた. 2)嫌悪感 次に,遭遇したストレッサーに対する嫌悪感について実力発揮度による差異を検討したところ有意だった(Wilksのλ=.64, F(6, 52)=3.94, p<.01).事後分析の結果, 経験頻度における傾向と同様に,表4に示したように,練習(t(58)=2.32,p<.05),および周囲からの期待(t(58)=2.04,p<.05)の両ストレッサー因子において,実力発揮度の低群は高群より顕著に高い嫌悪感を評定した. 3)ストレス評価 遭遇したストレッサーに対する認知的な評価(経験頻度×嫌悪感)について実力発揮による差異を検討したところ有意だった(Wilksのλ=.67, F(6, 52)=3.47, p<.01).事後分析の結果,表4に示したように,試合(t(58)=1.77,p<.10),練習(t(58)=2.59,p<.05),および周囲の期待(t(58)=2.08,p<. 05)の3つのストレッサー下位因子に有意差が見られ,いずれも実力発揮度の低群のストレッサー評価が高かった.表1に示したように,ストレス評価の高かった項目は,試合因子の中では試合結果の懸念とチームへの貢献(項目1,7,19),練習因子では練習内容の不満足な消化状況と記録の伸び悩み(項目2,14,20),心身の調子因子では,試合前および当日の体調と自信の程度(項目4、10,16),そして競技生活因子では学業上の問題(項目30)について,実力発揮の低群は高群と比して高く評定した. 4.対処方略と実力発揮度の関係 試合までに遭遇したストレッサーへの対処方略における実力発揮度による差異は有意だった(Wilksのλ=.0.71, F(7, 52)=2.45, p<.01).事後分析の結果,表4に示したように,逃避型(t(58)=1.84, p<.10)および離隔型(t(58)=2.06, p<.15)の対処方略因子において実力発揮低群が高群と比して高く評定した. 5.ストレス反応と実力発揮度の関係 試合前におけるストレス反応における実力発揮度による差異は有意だった(Wilksのλ=.47, F(7, 52)=6.59, p<.01).事後分析の結果,表4に示したように,抑うつ因子(t(58)=4.94, p<.01),不安(t(58)=3.26 p<.01),怒り(t(58)=2.77, p<.01),認知的混乱(t(58)=4.38, p<.01),引きこもり(t(58)=3.10, p<.01),身体的疲労感(t(58)=5.87, p<.01),自律神経系の活動亢進(t(58)=2.79, p<.01)の全てのストレス反応下位因子において,実力発揮度の低群が高群と比して高い評定値を示した. 6.ストレス反応に対するストレス評価下位因子の貢献度の差異 全調査対象者について,ストレス反応に対するストレス評価因子の貢献度の差異を検討するため,ストレス反応の合計得点を基準変数,各ストレス評価下位因子の得点を説明変数とする重回帰分析を行なった.分析に先立ち多重共線性(multi-collinearity)の有無を見たところr=±.01〜.30の範囲で影響は小さいと解釈された.その結果,表5に示したように,回帰式の説明率はR2=.41(F(6, 78)=8.75, p<.01)で有意であり,説明変数の標準偏回帰係数は,練習 (β=.32,t=2.79,p<.01),対人関係 (β=.39, t=3.52,p<.01),および競技生活 (β=.18,t=1.75,p<.10)が有意な正の重みづけを示していた.つまり,試合前の長距離走者のストレス反応の大きさに寄与するストレッサー因子は,練習,対人関係,および競技生活におけるストレッサー評価の大きさであった. 7.ストレス反応に対する対処方略下位因子の貢献度の差異 ストレス反応に対する対処方略因子の貢献度の差異を検討するため,ストレス反応の合計得点と各対処方略因子において重回帰分析を行なった.まず多重共線性の問題を検討したところ,独立変数間の相関関係は小さかった(r=±.01?.30の範囲).次に重回帰分析を行ったところ,表5に示したように,回帰式の説明率はR2=.29で有意であった(F(7, 77)=3.05, p<.01).説明変数の標準偏回帰係数は,計画型 (β=.36,t=2.89,p<.01),逃避型 (β=.26,t=2.18, p<.05),離隔型 (β=..30,t=2.31 p<.01)が有意に正の重みづけを示した.これに対して,対決型(β=-3.05,p<.01),および肯定的評価型(β=-.26,t=2.10,p<.05)では負の重みづけを示した. つまり,試合前の長距離走者のストレス反応の大きさに寄与する対処方略因子について,計画型,逃避型,離隔型の3つの対処方略利用がストレス反応増大に関連するのに対して,対決型および肯定的評価型の2つの対処方略利用はストレス反応の低減に関連することが明らかにされた. |