第13回日本健康支援学会年次学術集会

「健康支援における科学と感性の融合」

大会長 田中喜代次(筑波大学大学院人間総合科学研究科スポーツ医学専攻)

開催日 平成24年2月18日(土)・19日(日)

開催地 筑波大学

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大会長挨拶

 

 第 13 回日本健康支援学会年次学術集会の開催に当たり、ご挨拶もうしあげます。

 

 私が今年度より本学会の理事長に就任し、茨城県で初の学術集会開催となります。前理事長の熊谷秋三先生とは大学院時代からの研究仲間であり、今後も密なコラボレーション体制のもと、学会の発展に寄与してまいる所存です。会員・非会員を問わず、健康支援(保健・医療・介護・福祉)に携わられる皆様のご支援を得て、日本発の健康支援の特長を世界に発信していく夢を抱いております。

 今年度の学術集会のメインテーマは、「健康支援における科学と感性の融合」であります。

 

 高齢化は「生(長寿)」を、逆に自然災害は「死(悲劇)」を連想しますが、これからの日本社会は、想定外の地震と津波で東日本が被っている大災害に匹敵するものかもしれません。しかも、長期戦です。団塊の世代は現在、自らがメタボリック症候群に奮闘しながら、親の介護で四苦八苦中です。また、子供の世話にはなりたくないと漠然と願いつつ、認知症にも怯えています。私もその一人です。

 

 今を生きる人々は、自分の介護や死生観をどのように考えているのでしょうか?国や研究者は将来が的確に読めているのでしょうか?市町村自治体は、地域の特殊性を勘案した独自の対策を練っているのでしょうか?介護予防や生活習慣病予防をミッションとしている事業主は、事の本質を見据えた良質の事業を展開できているのでしょうか?理想の老い(華齢)を実現できる人ばかりではなく、悲惨な老い(枯齢:脳が、そして筋肉も骨も枯れていくこと)とともに人生の終末期を迎える人が増えるのではないでしょうか?介護事業は玉石混淆といわれますが、今後は質の低下に向かいはしないか心配です。

 国民が未曾有の大災害を乗り越えるべく鋭意努力している中、介護や医療についても原点に立ち還って本質を見据える時期ではないでしょうか?

科学技術の活用ととともに、情熱、愛情、創意工夫があり、思いやりの質が上がらなければサービスを受ける側は悲劇に陥ることになります。研究者は複雑な研究デザイン(ランダム化比較試験、メタ分析、多変量統計解析など)を駆使した研究やインパクトのある英語論文を高く評価しますが、理解しやすい平易な和文メッセージが高齢社会を生き抜く一般国民には最も奏功することを忘れてはならないと思います。

 

 今、必要なことは健康づくりや医療関連専門職の「仕事のやり甲斐」を高めることだと思います。そのためには、各専門職(特に運動関係や介護関係)が自らの立ち位置を明確にすることでしょう。

 

 筋力、持久力、骨量、認知力、記憶力などすべて「右肩上がり」は困難(不可能)なのです。初期のベースライン時に比べて、3ヵ月、6ヵ月で数値が上がったとしても、誕生日を迎えるごとに低下していくものです。それが生きていることの証とも言えます。一部の人には一時期、可逆性(体力や身体機能の向上)が観察できますが、遠からず老化には勝てなくなる。体力・身体機能の向上を求める評価では、良質の保健指導や介護は展開できないのです。しかし、運動の習慣化は介護予防に極めて有効と言えます。病気をもっていても、傷みを抱えていても、運動しなければ身体の機能は衰退の一途であり、身体活動(運動)を保持し続けることの必要性は論を待ちません。運動嫌いの人に運動を強要しない一方で、運動の楽しさ、爽快さ、QoL(生活の質、人生の質)改善への抜群の効果を認識し、もっと自由闊達に運動を個人の生活の一部に位置づける導き、つまり運動処方・運動療法ではなく、運動を通したenjoy life(life enjoyment)で生活習慣病の改善や介護重症化の防止を図っていく政策に期待したいものです。

 

 お一人でも多くの会員や一般の皆様に本学術集会に参加していただき、研究者、行政職、健康づくり専門家、住民と一緒になって課題解決に向けた論議ができますことを心より楽しみにしております。

 

田中 喜代次

日本健康支援学会 理事長

第13回日本健康支援学会年次学術集会 大会長

 

 

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